ここまで来て、生きていた者は誰一人としておらなかったとなると。父上、母上はもう。いや・・・いかん。そんな滅多な事を考えるでない。決めつけてどうするのじゃ。
わらわは軽く頭を振ってから、ふううと長く息を吐き出した。そうして己を窘め、この先は暗澹としたものではないと言い聞かせるが。嫌な思いは頭にこびりつき、胸に暗雲を残し続ける。
「姫様、ここは拙者が」
総介の戦々恐々とした声が聞こえ、ようやくハッと我に帰った。
わらわは数歩後ろに控える総介を一瞥してから、もう一度息を吐き「いや」と端的に告げた。
「ここは、わらわが」
一音ずつしっかりと言葉を口にして、襖にゆっくりと手を伸ばしていく。
この先は、嫌なものではない。父上も、母上も。笑顔でわらわの帰りをお待ち下さっているはずじゃ。何も、何も憂いはない・・。
意を決して、サッと襖を開ける。
すると今の今まで必死に堪えていたものが、ぱんっと大音量を響かせながら弾けた。まるで、焙烙火矢が弾ける様に。
朱殷色の小さな池に体を浸け、伏せっている父上と母上。驚きを隠せない表情の父上と、長い髪が乱れ顔にかかっているのにそのままでいる母上がいる。息をしていないのは、一目瞭然であった。
その光景に、目を疑った。これは悪夢だとも思った。
父上と母上が朱殷色の小さな池に伏せり、微塵も動かない訳がない。驚きの表情を固まらせたまま動かない。わらわの父上は、そんな事をなさるお方ではない。長い髪が乱れ、顔を覆い隠しているまま。わらわの母上は、そんな乱れを許すお方ではない。
ぐちゃぐちゃと頭の中が雑然とし出すが。父上の傍らに立っている奴を見て、恐ろしい程に考えは一掃された。
そしてわらわは、わなわなと震え出す。だが、それは悲しみから来るものでも、恐怖から来るものでもなかった。この震えは、凄まじい怒りから来るものだ。
「貴様あああああああああああああああ!」
絶叫し、シャッと緋天を素早く引き抜く。力強くダンッと地面を踏みしめ、目の前に居る相手にかかっていった。
相手はわらわに気がつくと、悔しげな顔つきで刀を避けた。腰にある刀を抜こうとせず、わらわの攻撃を避け続けるが、怒り任せで振っていた刀が、はらりと紺色の毛先を少し切り落とした。
「よくも、よくも父上と母上を!皆を殺したな!京!」
怒髪天を衝き、刀を突きつける。
わらわは軽く頭を振ってから、ふううと長く息を吐き出した。そうして己を窘め、この先は暗澹としたものではないと言い聞かせるが。嫌な思いは頭にこびりつき、胸に暗雲を残し続ける。
「姫様、ここは拙者が」
総介の戦々恐々とした声が聞こえ、ようやくハッと我に帰った。
わらわは数歩後ろに控える総介を一瞥してから、もう一度息を吐き「いや」と端的に告げた。
「ここは、わらわが」
一音ずつしっかりと言葉を口にして、襖にゆっくりと手を伸ばしていく。
この先は、嫌なものではない。父上も、母上も。笑顔でわらわの帰りをお待ち下さっているはずじゃ。何も、何も憂いはない・・。
意を決して、サッと襖を開ける。
すると今の今まで必死に堪えていたものが、ぱんっと大音量を響かせながら弾けた。まるで、焙烙火矢が弾ける様に。
朱殷色の小さな池に体を浸け、伏せっている父上と母上。驚きを隠せない表情の父上と、長い髪が乱れ顔にかかっているのにそのままでいる母上がいる。息をしていないのは、一目瞭然であった。
その光景に、目を疑った。これは悪夢だとも思った。
父上と母上が朱殷色の小さな池に伏せり、微塵も動かない訳がない。驚きの表情を固まらせたまま動かない。わらわの父上は、そんな事をなさるお方ではない。長い髪が乱れ、顔を覆い隠しているまま。わらわの母上は、そんな乱れを許すお方ではない。
ぐちゃぐちゃと頭の中が雑然とし出すが。父上の傍らに立っている奴を見て、恐ろしい程に考えは一掃された。
そしてわらわは、わなわなと震え出す。だが、それは悲しみから来るものでも、恐怖から来るものでもなかった。この震えは、凄まじい怒りから来るものだ。
「貴様あああああああああああああああ!」
絶叫し、シャッと緋天を素早く引き抜く。力強くダンッと地面を踏みしめ、目の前に居る相手にかかっていった。
相手はわらわに気がつくと、悔しげな顔つきで刀を避けた。腰にある刀を抜こうとせず、わらわの攻撃を避け続けるが、怒り任せで振っていた刀が、はらりと紺色の毛先を少し切り落とした。
「よくも、よくも父上と母上を!皆を殺したな!京!」
怒髪天を衝き、刀を突きつける。



