プロローグ
 時は、戦国時代。各地で力を持った大名達が台頭し、国を作りあげ、熾烈な勢力争いを繰り広げていた。
 日本各地で戦が起き、戦の波が波紋を作るように広がる。その波は、武士達だけではなく、民をも飲み込んでいった。
 平和とは天国と同じ距離にあると思われた程、死者が溢れかえり、凄まじく荒れていた。そのせいか、人々の怨恨や悲しみが募りに募っていた。
 人間にとっては不幸な事であったが。ある種族は人間達が繰り広げる熾烈な戦に乗じて、絶滅しかかっていた存在を強め、幸運に転じた事となった。
 その種族とは、日本各地に蔓延っていた妖怪達である。妖怪達は力を強める事に成功し、絶滅を免れたどころか、人々を襲い始め、自分達もと独自で国を作り始めた。
 大名の国、妖怪の国。
 ますます戦火が広がり、各地の民は平和を切望した。
 だが、ある一国は戦の波に飲まれず平和を保っていた。そこは美濃・信濃・尾張・三河の四国に挟まれる様に位置していた小国、美張(びばり)であった。
 平和を保つ希有な国であり、治めていた大名も民からの信望が厚く、絵に描いたような理想郷だった。
 織田・武田・斎藤・今川と言う四強に挟まれて、度々進撃されていたが。何度進軍されても、それらを全て退けていた。
 小国美張の戦姫(いくさひめ)と呼ばれた人物が率いる最強の軍によって。
 女ながらも戦の前線に立ち、持てる力全てを振るい、民の為に平和の為に戦っていた。その名は、久遠千和姫(くおんちわひめ)。
 熾烈な戦いを幾度となく生き抜き、とても優しい心を持った最強の女性であった。

一章 小国の戦姫
「姫様あああああああ!いずこにー!」「おい、そっちはどうじゃ?!」「こっちにはおらぬぞ!」「ええい、言葉はいらぬ!探せ、探し出すのじゃ!」
 城内の廊下を強く踏みしめて駆け回る音と、悲鳴にも近い叫声が聞こえる。
 必死に叫び周り、姿が見えなくなったわらわを探しているのだ。
 にししし、まさか城の屋根にいるとは思うまいよ。このまま助走をつけて、飛び出せば、無事城下町に降りられるだろう。
 うむ、我ながら見事な策じゃ。
 唇の端が自然とニッとあがり、しめしめと笑いを堪える事が出来ないが。緩みきった笑みを正す様に、下方からびゅおっと風が吹き荒れた。
 そんな顔をしていないで、早く飛び出さねばと急かされている様にも感じる。