「手紙には何と書かれてありますか?」

アサイルはサザール砦にいるラルフから王城のエルバートに向けて届けられた手紙の内容を早く知りたがった。

「マガンダを追い返したので、まもなくレジランカに帰還するとある」

アサイルはほっと胸を撫で下ろした。

腹違いの弟の帰還はアサイルにとって喜ばしいことであった。

ただ、ラルフがレジランカに戻る前にエルバートにひとつだけ聞いておかなければならないことがあった。

「兄上、ひとつ伺ってもよろしいでしょうか?」

「何だ、アサイル」

エルバートの執務室にはアサイルの他には誰もいなかった。

エルバートと二人きりになるためにアサイルが人払いをしたからである。

「兄上はラルフが自力で脱出することを見越して人質交換に応じないとおっしゃられたのですか?」

「……だったらどうした?マガンダごとき出し抜けぬ男なら団長の地位を返上して貰うまで」

アサイルは途端に頭が痛くなった。

エルバートが言わんとしていることは理解できるが、実に角が立つ言い方である。これではラルフが報われない。

「なぜ兄上はそうラルフにばかり、無茶を要求するのですか……」

ラルフの肩を持つアサイルは、つい非難がましい口調で兄を責めた。

エルバートは自分にも他人にも厳しい男であるが、とりわけラルフには無理難題を押し付けることが多い。

今回の所業はその最たるものだった。

「お前はなぜ母上がラルフと生まれたばかりのエミリアを王城から追い出したか知らんだろう。……"竜の篩”を知っているか?」

アサイルは首を横に振った。

「王族は生まれた際に竜の篩に血を垂らし、己が竜の系譜にあるかどうか宣託を得る。我ら兄弟がいくら血を垂らしてもピクリとも動かなかった水盤がラルフの時には光り輝いたのだ」

エルバートは目を瞑りあの日の光景を思い出した。

エルバートが青白く光る水盤の光に魅了される一方で、母アイリーンは固く唇を噛み締めていた。

「一人目のラルフの時はまだ耐えられた。二人目のエミリアには時はとうとう耐えられなかった」

リンデルワーグ王家が脈々と継いできた竜の系譜の子供を産めなかったことが、アイリーンを絶望に陥れ、ラルフ達親子への憎しみを深くした。

「私はただ知りたいのだ。竜の系譜にどのような力があるのかをな……」

エルバートは今回のラルフの働きに満足していた。期待通りマガンダを退け、生きて戻ってきた。

おまけにマリナラ・レインフォールという逸材を手札に加えることができた。成果は上々である。

「さて……あとは王城に巣食う鼠を退治するだけだな」