団長不在の中、サザール平原に布陣したリンデルワーグ勢は善戦していた。

「左翼、動きが遅い!!早く立て直せ!!」

ハモンとニキを両脇に従えたキールの指揮は目を見張るものがあり、状況判断の的確さは団長であるラルフを凌ぐほどであった。

「10時の方向より敵影!!構えよ!!」

若さ故の荒さはあるものの、そこは年長者であるハモンが援護してやる。マガンダと長年やり合っているだけあってハモンの読みは面白いほどによく当たった。

「貴方達、キールだけにでかい顔させておくわけには行きませんよ!!」

ニキは馬上から大剣を振り下ろし、マガンダ兵を次々と討ち取っていった。

ニキの女性らしい身体つきのどこにそんな力があるというのだろう。男顔負けの膂力と身体のバネを活かした素早さは天性のものである。

主力を率いる者たちの獅子奮迅の活躍のおかげで戦線は後退することなく、むしろサザール平原からあと少しで追い返すというところまできていた。

……潮目が変わったのは正午過ぎのことである。

絶え間なく打ち寄せてきた弓が急に止み、マガンダ兵が引いたかと思うと、総大将であるナイジェル将軍が輿に乗って現れこう告げたのである。

「我々はリンデルワーグ王国第4王子、ラルフレット・リンデルワーグの身柄と引き換えにサザール平原の割譲を求める!!」

ナイジェル将軍は高らかに宣言すると剣を高々と天に突き上げた。

剣に突き刺せられた金色の鷹の刺繍が入った団服が旗のようにはためき、鈍色の閃光を放つ。

「いや、まさか団長が……!?」

「嘘だろ!?」

無惨に扱われた金色の鷹を見た団員の動揺は波紋のように広がった。

混乱を避けるため、ラルフ不在の理由を伏せていたことがかえって仇となった。

部隊長級の団員は肝が据わっており根拠のないまやかしだと一笑に伏していたが、経験の浅い新人や年少者は見るからに戦意を喪失していた。

それを見たナイジェルは鼻で笑った。

「お飾りの団長にしては慕われているではないか」

統制の乱れは僅かなものであったがナイジェルには充分であった。

用が済んだナイジェルが前線から引くと、勢いづいたマガンダ兵が雪崩のように迫ってきた。

「くっ!!引け!!」

敵陣深くまで踏みこんでいたリンデルワーグ勢は、態勢を立て直すことも出来ず敗走した。

こうして、マガンダとの初戦はリンデルワーグの惨敗という結果に終わったのである。