ラルフは離宮を走り去るとガーラ山を駆け降り、早々にカレンザ街道へと舞い戻った。
そのまま街道を北上し途中で宿場街を5つほど超えしばらくすると、遠くに土煙と馬影が見えてくる。
ラルフはみるみる速度を上げ、あっという間に騎兵の一群の最後尾についた。
団員達はロンデを見るやいなや、目配せしあい左右に分かれ道を譲った。
一群の先頭を走っていたキールはラルフが追いついたと知ると、ここぞとばかりに軽口を投げかけた。
「遅いですよ、団長!!あんまり遅いんで置いていくところでしたよ!!」
「ははは。悪いな、キール!!」
ラルフの到着を今か今かと待っていたキールは喜んで先頭を譲った。
「ついて来られる者だけついて参れ!!」
ラルフは共に疾走する先遣隊の皆にそう言うと更に速度を上げた。
ロンデは軍馬の中でもとりわけ足が速く、ロンデを乗りこなすラルフの操馬術と身のこなしもまた容易く真似できるものではない。
副団長のキールでさえ、置いていかれないようついていくのがやっとである。
それでも先遣隊として送り込まれた精鋭の半分ほどはラルフから遅れずに必死になって食らいついてきた。
それはひとえにキールとグレイの日頃の特訓の賜物だろう。
こうして、ラルフ達は北の砦までの道のりを飲まず食わずで駆け抜けたのであった。
リンデルワーグ北部、サザールの砦はマガンダとの国境を守る要衝であると同時に北方騎士団の本拠地である。
砦が目視できる距離まで迫ってくるとラルフはすぐにその異変に気がついた。
「……おかしいな」
レジランカまで救援要請を出したにも関わらず、サザール砦は何の攻撃も受けておらず、火の手も上がっていなければ、襲われている形跡もない。
「偵察を出しますか?」
「ああ、頼む」
隊を砦の手前で待機させ、団員をひとり砦に向かわせるとまもなく何事もなく戻ってきた。
「ハモン様より伝言です。そのまま入場してもらって構わないとのことです」
ラルフとキールは偵察に向かわせた団員に砦内の様子を事細かに聞いたが、何ら不審な点は見受けられなかった。
「どう思います?」
「いつまでもこの場にいても始まらぬ。行こう」
ラルフの鶴の一声により、先遣隊の一行は砦への入場を果たした。
「殿下!!」
北方騎士団団長ハモンはラルフが率いる先遣隊入場の知らせを聞くと飛んできた。
「ハモン殿、状況を説明してくれ。なぜ砦はマガンダの攻撃を受けておらぬ?」
ハモンは北方騎士団の団長を10年以上務める壮年の騎士であり、マガンダの国情にも精通している。
ハモンはその場に膝を折り、事の経緯を報告した。
「マガンダ軍国境侵犯の知らせを受け、レジランカに救援要請を送ったものの……マガンダ軍は昨夕、サザール平原の北西に陣営を構えて以降、動く気配がありません」
ラルフとキールは互いに顔を見合わせた。