エミリアはラルフを見つけるなり矢継ぎ早に話し出した。
「いいですか!?事前に何の連絡もなく、突然婚約するなどと言われても、意味がわかりません。そもそも手紙で済ます内容ではありません!!」
口を挟む隙を与えずここぞとばかりにぐいぐいと迫ってくる様は、さすが疾風迅雷の異名を持つラルフの妹である。
「ははは。説明が遅れてすまなかったな」
「ですから!!笑って済ますことではありません!!」
エミリアは肩を怒らせ、ポカポカとラルフの胸を叩いた。
アサイルから預かった種と一緒に離宮に手紙を届けさせたのは、王城から帰ってすぐのことである。
エミリアが今日にもレジランカにやって来たということは、手紙が届いた翌日に離宮を出発したということである。
ラルフとしてはややこしい説明を省いて簡潔に書いたつもりだったが、それが随分と不満だったらしい。
「兄上に交際している女性がいたなんて私聞いておりませんでしたわ。てっきり女性とは縁遠いものだとばかり……。どうして教えてくださらなかったのですか?」
離れて暮らす妹からも私生活の枯れっぷりを指摘されるとはいささか情けない。
ラルフはどう答えたものかと思案した。
エミリアの言う通り、此度の熱愛は契約の名の下にでっちあげられたもので、もう何年も恋人などいなかった。
だからと言って正直に契約のことをエミリアに話すわけにはいかない。
のらりくらりとかわしたところで、ラルフの論法に慣れている聡いエミリアが納得するはずもない。
どうやって追究を逃れるか知恵を絞っていると、意外な助け舟がよこされた。
「兄上に恋人ができたからと言って、妹に報告する義務はありませんよ。いつまでも兄上、兄上とひよこのように鳴いていないで兄離れなさってください。
それに恋というのはいつどこで誰と落ちるか分からないものです。おっとまだ王女様にはこういったお話はお早いですかね?」
これでは助け舟というよりは泥船である。
キールの言わんとしていることは正しいが、正しいが故にエミリアの心に深く刺さった。
エミリアは恥ずかしさのあまり顔を真っ赤に染め上げた。
「兄離れできていないのは事実ですが、私とて恋がどんなものかくらいは知っております……!!」
「はい、待った~」
見るに見かねたニキは背後からエミリアの口元を手で塞いだ。許可なく御身に触れあまつさえ口を塞ぐなど、失礼極まりないがこの場の誰もがそれを指摘しなかった。
ニキがやらなかったらグレイが同じことをしていたはずである。