王妃の生んだ3人の王子と妾の子の仲が必ずしも険悪な仲とは限らない。
最も歳の近い三兄のアサイルは兄弟の中でもとりわけラルフと親しくしていた。
王位継承権を持つとはいえその序列は低く、王太子があのエルバートということもあり国王即位は到底望めない。
それに加えて生来の虚弱な体質と内臓機能の低下による肥満のせいで実母である王妃からも疎まれている境遇はラルフとよく似ている。
王城の鼻つまみもの同士、ラルフとアサイルは昔からよく気が合っていた。
「ラルフ、久し振りだね」
「兄上もお変わりないようで」
「この腹を見てわからないのか?近頃天幕にこもって土を耕していたせいでめっきり瘦せたんだ」
「それは気が付きませんで」
アサイルは太鼓腹を撫でながら痩せたと豪語したが、ラルフから見て腹肉の体積はそう変わってないように見えた。
「兄上はどうしてこちらに?」
「王城に来るって聞いていたから僕のところにも寄るだろうと思って部屋で待ってたんだけど、母上の外出が取りやめになったと聞いて嫌な予感がしたんで飛んできたんだ。……ちょっと遅かったけど」
「わざわざありがとうございます」
「うっかり鉢合わせでもしたら血を見ることになるのは明らかだしね。案の定、すんでのところで間に合って良かったよ」
本当に危ないところだった。アサイルの機転のお陰で首の皮一枚のところで助かった。
「新年の晩餐会で顔を合わせて以来、ちっとも王城に来ないんだもんな。騎士団って今忙しいの?休暇も取れないのかい?」
「父上が倒れてからは仕事以外で王城に来るのを最近は控えているのです。アイリーン王妃の気に触るような行動は極力避けるように心掛けております」
「母上のヒステリーは今に始まったことでもないだろう?」
国王が病床に臥してからは王太子のエルバートが国政を取り仕切っているとはいえ、王位継承権を持つ者にとって己の即位の可能性はまだ残されている。
エルバートの身に何かあればあるいは……というような状況で、ラルフがちょこまかと王城をうろついていては王妃に限らず皆気が休まらない。
王城には必要最低限しか近づかないのはラルフなりの配慮の結果である。
ラルフとアサイルは今度こそアイリーン王妃に見つからないように注意深く廊下を歩いた。取り留めのない会話をしながら、後宮の東側にあるアサイルの自室に向かう。
重厚な観音扉といくつもの階段、迷路のような小廊下を抜けた先にはとても王城とは思えぬ光景が広がっていた。
元来、後宮にはいくつもの庭園がある。他国から嫁いできた姫の郷愁を慰めるため、ともすれば後宮に篭りがちな高貴な女性方に季節感を楽しんでもらうため、諸国と関係を深める外交戦略のためと、その目的は様々である。
アサイルの住む"青の宮"の庭園は他の宮とは異なる様相を呈していた。
王族が長い年月を経て慈しみ育ててきた庭園は影も形もなく、庭園があったはずの場所には綺麗に耕された畝が広がっていた。
青の宮はその名の通り、青々とした草が覆い茂る薬草畑になっていたのである。