曲がりくねった小路を最大限速足で歩く。なんとなく走ってはいけないような気がして。
 さっきの分かれ道からはずっと一本道を進んでいるだけなのに、なかなか出口が見えてこない。

「もう! 京都の道は碁盤の目だからわかりやすいなんて、絶対嘘!」

 実際、目の前の道は真っすぐではないし、二日連続で迷子にもなっている。当面スマホは無理そうなので、地図くらいは持っておくべきかもしれない。

「次にあったコンビニで、絶対マップを買うんだから!」

 気を抜くと足が止まりそうになる自分を鼓舞するため、声に出してそう意気込んだときだった。

「お嬢さん、道に迷ったのかな?」

 突然かけられた声にビクリと肩が跳ねた。振り向くと年配の男女ふたり組がいる。
 さっきまではどこにも見当たらなかったはずなのにいったいどこから? と思っていたら、男性の方が口を開いた。

「私たちも道に迷っていてね。どこか別の道がないかと見てきたんだが……」

 そう言って木が生い茂る藪の方をさしたため、なるほどそれで、と思う。

 ふたりは夫婦で京都観光に来たそうだ。スマホはあるけれど買ったばかりで使い方がよくわからず、地図アプリも入れていないらしい。

『せっかくなので大通りに出るまで一緒に行こう』という夫婦の提案に、璃世はうなずいた。ひとりで心細い思いをしていたため、少しホッとする。

 女性は、隣を歩く夫が手に持っている観光雑誌をのぞきこみながら、時々なにかを口にする。きっと地図を見て道を確かめているのだろう。
 両親が生きていればこんなふうに仲良く旅行に行ったりしていたのかもしれないと、ほんのりせつない気持ちになってしまう。

 ふたりの後ろ姿をぼんやりと見ながら歩いていたら、突然ふたりが道を逸れて木々の茂る方へと入っていった。

「え! そっちは道じゃないですよ⁉」

 慌ててそう言うと、男性が顔を半分振り向かせ、「地図に書いてあるから」と言う。女性の方も「そうなの」と微笑んだ。
 戸惑った璃世が足を止めているうちに、男性の方はどんどん森の中へ入っていく。

「ほら早く。置いていかれちゃうわ」

 女性の言葉に急き立てられ、璃世はふたりの後をついていった。