「お前、私と祝言を挙げただろう」
 浬烏は大声を上げた華衣を前にしても、ただ淡々と続けた。
「祝言、ですか?」
「ああ。今の人間風の言葉で言えば結婚式のことだ」
 華衣の脳裏に、三々九度をしたあの日の夢が蘇る。
「え、だってあれは夢で――」
「夢ではない。お前の魂をかくりよまで運び、式を終えて戻したまでだ」
「は?」
「お前は私の妻になった。お前がこの村に立ち入った時、迎えに来ると約束しただろう」
 真顔で淡々と述べられる嘘のような真実に、頭がついていかない。
 約束なんて、した? ……ような気もする。
「え、マジでちょっと意味がわかりません結婚してるんですか!? 私とあなたが!?」
「ああ。早く『お祖母ちゃん』とやらの死に目に挨拶してくると良い。私はここで待っている」
「え、あ、はぁ!?」
 ちょうどその時、祖母の家の引き戸が開いた。二人は引き戸の方を振り返る。
「華衣!?」
 そこには、驚き目を見張る父の姿があった。