「――なっ、汚いですって。私が? 汚い? そんなわけないでしょう! その女のほうがずっと汚いです。あーあ、いったいどんな手を使って男に近づいたんだか!」
「……清、もう、やめなさい」
気がつけば、次期村長が清を押さえつけ、土下座させようとしていた。
「娘が大変な無礼を。申し訳ありません。この娘は本当にわがままでして。もう一度教育し直します。どうかご容赦を」
「なに言ってるの父さま? 私のせいじゃないでしょう?」
「この村の未来を考えるなら、お願いだからいますぐ大人しくしてくれ……!」
「そうよ清。これ以上、父さまと母さまを困らせないで」
ひざまずいたまま、声を震わせて、次期村長の奥様――私の生みの母親が言う。
「私は産むときに間違えた。忌み子はきっとあなたのほうだったんだわ、清」
「――うるさい! そんなわけないじゃない、うるさい、うるさい、うるさい!」
「硯。いままでごめんなさいね。母さまは本当はあなたを愛していたの。けれど、村の風習に従って、仕方なく……」
「そうだぞ硯。わしらはずっとおまえの身を案じていたんだ。おまえを仕方なく忌み子にしたが、心配で心配でたまらなかった」
「そうよ。私は清なんかより硯のほうを愛していたのよ。いつも清にいじめられているあなたが、母さまはずっと不憫で……」
ああ。こんな言葉。……このひとたちに、かけられるの、初めてだ。
「私が清にいじめられていたこと、知っていたんですね」
私の声は、自分でも驚くほど、冷たく響いた。
「……村の決まりで、双子の先に出てきたほうが忌み子になるのは、わかってます。でも……そんな嘘を、今更っ……言われたって……」
私は、またしても涙を流してしまった――自分のなかに、悲しみがたまっていることすら、いままで気づいていなかった。
「……硯を泣かせたな。水淵村をいますぐ滅ぼしてやろうか」
「申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません。それだけは何卒ご容赦を」
次期村長は紅の前にひれ伏し、その妻も、同じようにした。
しかし、清は――。
「ふざけないでっ――」
紅に――いや、紅に抱きかかえられている私に、拳を振り上げた。
「……清、もう、やめなさい」
気がつけば、次期村長が清を押さえつけ、土下座させようとしていた。
「娘が大変な無礼を。申し訳ありません。この娘は本当にわがままでして。もう一度教育し直します。どうかご容赦を」
「なに言ってるの父さま? 私のせいじゃないでしょう?」
「この村の未来を考えるなら、お願いだからいますぐ大人しくしてくれ……!」
「そうよ清。これ以上、父さまと母さまを困らせないで」
ひざまずいたまま、声を震わせて、次期村長の奥様――私の生みの母親が言う。
「私は産むときに間違えた。忌み子はきっとあなたのほうだったんだわ、清」
「――うるさい! そんなわけないじゃない、うるさい、うるさい、うるさい!」
「硯。いままでごめんなさいね。母さまは本当はあなたを愛していたの。けれど、村の風習に従って、仕方なく……」
「そうだぞ硯。わしらはずっとおまえの身を案じていたんだ。おまえを仕方なく忌み子にしたが、心配で心配でたまらなかった」
「そうよ。私は清なんかより硯のほうを愛していたのよ。いつも清にいじめられているあなたが、母さまはずっと不憫で……」
ああ。こんな言葉。……このひとたちに、かけられるの、初めてだ。
「私が清にいじめられていたこと、知っていたんですね」
私の声は、自分でも驚くほど、冷たく響いた。
「……村の決まりで、双子の先に出てきたほうが忌み子になるのは、わかってます。でも……そんな嘘を、今更っ……言われたって……」
私は、またしても涙を流してしまった――自分のなかに、悲しみがたまっていることすら、いままで気づいていなかった。
「……硯を泣かせたな。水淵村をいますぐ滅ぼしてやろうか」
「申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません。それだけは何卒ご容赦を」
次期村長は紅の前にひれ伏し、その妻も、同じようにした。
しかし、清は――。
「ふざけないでっ――」
紅に――いや、紅に抱きかかえられている私に、拳を振り上げた。