おまけ



「な、なんだよ……燿子ちゃん……」

距離を置こう、そう言ってしまった手前、今すぐ飛んで行きたいのにそうもできない。

星は頭を抱えて畳の上を転がった。

目をつぶってアーンと口を開けている燿子。

箸を握っているのがサトシであったとしても、そんな可愛い顔を見せていいのは自分の前だけだ。やっぱりここは釘を刺しに行くべきか。

むくりと起き上がってじっとスマホの画面に見入る。

トンカツ定食、オレンジの椅子の背もたれ、奥にドリンクバーの看板。

場所はファミレスで間違いない。

星は車のキーを掴んで立ち上がった。

なんなら自分も一緒に燿子の家まで送っていってもいい。

そう言えば住所を聞いていなかった。痛恨のミスだ。

一足違いだったのか、店内に燿子とサトシの姿はなかった。

サトシの奴、あんな写真を送ってきておいて待たずに帰るとかありえない。

星は内心でサトシの首を締め上げる。

それとも、可愛い妹を自慢したかっただけなのか?

仕方なくサトシの部屋で帰りを待つことにした。サトシのスマホからはあの写真は削除だ。

それから燿子の様子を聞いて……

待っている間にリピートの続きを少し進めておくか。

星はやがて夢中でペンを走らせていた。



「来てたのか」

「来てたのかじゃねぇよ。燿子ちゃん、……どんな感じ?」

「ああ、大丈夫だ。ちゃんと家まで送り届けてきたよ」

「何か言ってなかった?」

「何かって?」

「た、例えば恋の相談……とか?」

「別になかったけど」

「あ、そう」

「ファミレスに来たのか?」

「い、行ってねーし」

「ふーん。お、リピート進んだな」

「まぁな。そういやさ、ずっと気になってたんだけど、結局リピートの原案てお前と尚也のどっちなの?」

「忘れた」

「忘れた?」

「尚也と記憶が混じって大分経つからな。もうどっちがどっちかとか分からん」

「…………」

「なんで?」

「あ、ああ。実はさ、リピート、本にしようと思ってさ」

「書籍化の話は断ってきたじゃないか」

「うん。でもさ、待っててくれる人がいるんだよね。それに、本にした方が尚也が生きた証を遺せるんじゃないかと思ってさ」

「いいんじゃないか」

「じゃあ、決まりな」

二人は缶ビールで乾杯した。

後に売上げのほとんどを病気の子どもたちのために寄付し、Ark onは世界にその名を知らしめたとかしなかったとか。