「それで……結局私の『力』ってなんなの?」

 夕暮れの道を歩きながら、紗良は気になっていたことを問いかけた。開花した、などと言われたが、自分としては特別に変わったことは感じられない。
 だが、問われたコハクは一瞬ぱちぱちと目を瞬かせると、小さくため息をついた。

「自覚がないのか……? その『目』だ。俺たちあやかしや、神は——人に認識されると力を増す。おまえの『目』は特にその力が強いんだ」
「ああ……それで……、なんかじんじんすると思った」
「えっ」

 紗良が「なるほど」と頷くと、コハクは慌てた様子を見せた。

「な、なにか妙なものが見えたりするか?」
「え……? ああ、今じゃないよ」
「そうか……」

 事情を説明すると、コハクがあからさまに安堵した様子を見せる。どうしたのか、と目を瞬かせると、彼は何でも無いことのように呟いた。

「中学からずいぶん力が増してきて、俺もかなり封じるのに苦労したからな……今はもう、そばにいられるから大丈夫だが……」
「え……?」

 聞き捨てならないことを聞いたような気がする。
 マンションのエントランスをくぐり抜けながら、紗良は「中学?」と低く呟いた。するとコハクが大きく頷く。
 どうやら、彼の言によれば、紗良の力が開花し始めたのは中学生頃だという。それを、白狐であるコハクが封じていたのだとも。
 そのせいで、あやかしが見えなくなっていたものらしい。
 つまり——彼は中学から紗良をずっと見ていた——いい言い方をすれば、見守っていた、ということになる。
 なるほど、危ないところを助けてくれたのは、つまりずっと見ていたから、ということだ。

 良かったのか悪かったのか、わからない。けれど、今が幸せだから良いか——。
 紗良は部屋の扉を開くと、コハクと共にその中へと消えていった。