「おまえは、あやかしや神の力を増幅する存在なんだ。だから、力の少ないあやかしの子たちの姿を見ることもできたし、それよりもさらに力の弱いあやかしたちを、認識することもできた」
「ええっ……?」

 初めて知る衝撃の事実に、紗良は驚いて声をあげる。そんな紗良の頭をぽんと撫で、コハクは苦笑した。

「誰でもあんなことができるわけじゃないんだ。俺が怪我をしているのを見つけられたのも、その力があったから。だが……その力が開花を迎えたせいで、紗良は落ち神に狙われてしまうようになった」
「そう、それ……前も言っていたけど、『おちがみ』ってなんなの?」
「神から落ちた存在だ。どんどん力を失って、神格がすり減って。格が保てなければ、あとは神の位から滑り落ちる」

 そう言いながら、コハクは空中に「落ち」という文字を描いた。なるほど、「おちがみ」は「落神」と書くのか、と納得する。

「俺は……そうやって、落ち神に狙われているおまえを守りたくて、ここに来た」
「ど、どうして……?」

 ごくり、と喉を鳴らしてつばを飲むと、紗良は一番聞きたかったことを問いかけた。いいや、本当はもうわかっている。コハクの瞳は雄弁だ。全て彼の目が語ってくれた。

「どうしてコハクは、そこまでして私を守ろうとしてくれてるの……?」
「そ、そりゃあ……」

 コハクの耳と尻尾が、せわしなく動く。頬を真っ赤に染めながら、彼は小さな声で呟くようにこう答えた。

「お、おまえのことが……好きだから、だ」
「うん」

 ようやく、言ってくれた。紗良は嬉しくなって、彼の首に腕を回して抱きつくと囁きかける。

「わたしも」