「え、智颯?」

 教えてもらったばかりの名前を呼んでみるが、男の子の声は返ってこない。

 ふと見ると、彩寧の手には落としたはずのがま口財布が握られていた。財布の口はきっちりとしまっていて、さっき地面にぶちまけたはずのお金も全部財布の中に入っている。

 夢——……? 

 よくわからないままにおばあちゃんの家に帰ると、ママが彩寧を探して玄関から飛び出してきた。

「彩寧。明日、お家に帰ろうか。パパが、ママと彩寧に早く会いたいって」

「パパと仲直りしたの?」

「そうだよ」

 彩寧のことを抱きしめるママの声は、とても嬉しそうだった。

 今朝起きたとき、「パパとはもう一緒に暮らせない」と、ママはものすごく怒っていたのに。たった数時間で状況が良くなるなんて信じられない。

 これは、神様へのお願いごとが叶ったということなのだろうか。

 神社で会った不思議な男の子のことを思い出しながら、左手を見る。彩寧の左手の薬指の付け根には、指輪を嵌めたような噛み跡がくっきりと痣になって残っていた。