「あなたはどうしてわたしにお嫁さんになってほしいの?」
彩寧が困り顔で訊ねると、男の子は賽銭箱の向こうの社の奥のほうに視線を向けた。
「力が、必要だからだ」
「力?」
「おまえが嫁になることを誓うなら、おれが願いを叶えるための力を貸してやる」
「願いを叶える……?」
男の子が社の奥に向けていた視線を彩寧に戻す。
やや目尻の上がった、意志の強そうな青紫の瞳。その瞳の鋭さと美しさに、彩寧の身体が芯から震えた。
その感覚は、彩寧が初めてこの神社を訪れたとき、突風のあとの静寂の中で感じたものとよく似ていた。
唐突に彩寧の前に現れた、不思議な格好をした綺麗な男の子。この子はきっと、限りなく神様に近い存在なのだ。それは、疑いようのない事実に思えた。
「いいよ。あなたのお嫁さんになる」
少し考えてから、彩寧は男の子の着物の袖をぎゅっと握った。
彩寧は、どうしても神様にお願い事を叶えてもらいたかった。パパとママに、仲良くしてもらいたかった。
男の子の「お嫁さんになる」と口約束するだけで神様に願いが届くなら、それほど容易いことはないと思った。