「猫を追いかけて、このお寺の中に入ってきたの?」

「うん、そうだよ。うちのお庭を通って、どこかに行こうとしてたから、ハルと一緒に追いかけたんだ。ここ、あの子たちのお家なんだよ」

 ヒロが本堂の狭い床下を指差しながら得意げに話す。

 頭を低く下げると、ヒロの言うとおり、子猫が数匹こちらをジッと覗き見ていた。

 ヒロは動物が好きだから、ハルのことを無理矢理に引っ張ってふたりで子猫を追いかけたのだろう。

 追いかけたくなった気持ちはわからなくもないけど……、ママに黙ってどこかへ行くのは絶対によくない。

 智颯に連れて来てもらわなければ、夜になってもふたりを見つけられなかったかもしれない。

「猫が気になったのはわかるけど、ふたりだけで勝手に出て行ったらダメじゃない」

 強い口調で叱ったら、床下の子猫に視線を向けていたヒロが、不貞腐れたように唇を尖らせた。

「あー。イロちゃんが大きな声出したから、赤ちゃん猫が奥に隠れちゃった」

「隠れちゃった、じゃなくて。勝手に出て行ったことを、ちゃんと反省しなさい」

「ごめんなさい」

 一応謝ってはきたものの、ヒロは不貞腐れて横を向いたままだ。本気で反省はしていなさそうだけど、とりあえずは無事でよかった。

「帰るよ。ママに電話してあげて。すごく心配してたよ」

 眠っているハルを片手で抱っこすると、ヒロにスマホを渡す。それを受け取ったヒロは、少し気まずそうな顔をしながら、ママに電話をかけていた。