「おれの本来の姿は、清良様の社を守る神獣だ」

「神獣!?」

「とにかく行くぞ。急がなければ。清良様の神力とおまえの気の力が保てるうちしか、弟たちの居場所を特定できない」

 智颯がわたしの肩を引き寄せる。未だ、驚きと混乱で状況を理解できずにいるわたしを抱き上げると、智颯が草履のつま先で地面を蹴って軽やかに宙に跳んだ。

「え、こ、怖っ……!!」

「しっかりつかまってろ」

 わたしを抱えた智颯は、高坂神社の本殿の屋根よりも高く跳び上がると、風のような素早さで、空中を滑るように進んでいった。

 わたしが苦労して上がってきた神社の石段をひとっ飛びで下り、二十分かけて歩いてきた神社までの道のりを、たったの一秒で駆け抜ける。

 あまりの速さに、周囲を見る余裕もない。振り落とされないようにすることだけを考えて必死にしがみついていると、急に速度が遅くなって、智颯が地面に降り立った。

 智颯に連れて来られたのは、泉心寺(せんしんじ)という住宅街の中にあるお寺の前だった。

 わたしの家から歩いて五分もかからない場所にある、小さな寺だ。

「ついたぞ」

 耳元で低い声がして、智颯がわたしを腕から下ろす。

「着いたって、どういうこと? ハルとヒロはここにいるの?」

「おそらく。清良様がおれにこの場所を示した」

「でも、家の近くはママが探し回ったんだよ。それでも見つからなかったって……」

「探しものは、案外近くに隠れているものだ。とにかく、行ってみろ」

「智颯は……?」

「おれが案内できるのはここまでだ」

 唇の端をあげて微笑んだ智颯の銀髪が揺れる。その姿が、風とともに消えてしまいそうな気がして、咄嗟に智颯の着物の袖をつかんだ。

 まだ弟たちは見つかっていないのに、ここで置いていくなんて無責任すぎる。