「本当は口から直接分けてもらうのが効率がいいが、今はこれでいい」

 そう言うと、智颯がわたしの左薬指の付け根にある指輪のような痣に口付けた。

 え、何これ!? 

 手の指とはいえ、突然の智颯からのキスに驚いて、心臓が口から飛び出しそうになる。

 ドキドキと鳴る心音を押さえられずにいると、キスされた薬指がぽわーっとあたたかくなって、智颯の銀色の髪がきらきらと輝き始めた。

 大きく目を見開くわたしの前で、白銀に光る智颯の頭からピンッとふたつ。犬のような尖った三角の耳が生える。続けて額の真ん中に、白く光る一角獣のような短い角まで出てきた。

「行くか」

 それまでよりも少し体格が大きくなったように見える智颯が、左薬指から唇を離して、わたしの肩を抱き寄せようとする。よく見ると、彼の背中には髪の毛と同じ銀色の長い尾が付いていた。

「ちよ、ちょっと待って!」

 ずっと、おかしな人だとは思っていたけれど。今の智颯の姿は、どう見たって人間ではない。

 智颯の体を押して飛び退くと、彼が小さく肩を竦めた。

「行かないのか?」

 行かないのか、って……。

 目の前で耳やら角やら尻尾やらを生やしておいて、何事もなかったみたいな顔でそんなことを訊かれても困る。

「あなたはいったい……」

 警戒心たっぷりな目で見つめながら後ずさると、智颯が風のような素早さでわたしのそばまで飛んできた。