ハルとヒロは、前にも一度、いなくなったことがある。

 ふたりがまだ一歳だった当時、わたしはママと弟たちと四人で大型ショッピングモールに買い物に出かけていた。

 双子用のベビーカーを押したママの隣を歩いていたとき、子ども服売り場に展示されていた淡いブルーのワンピースが、ふと、わたしの目に留まった。

 可愛いなぁ、欲しいなぁ。そんなことを思いながらよそ見して歩いていると、そばを歩いていたほかのお客さんの足に躓いて転んでしまった。

 転んだわたしを助け起こすためにママがベビーカーから手を離したその一瞬のあいだに、ハルとヒロがいなくなった。ベビーカーごと。

 幸いにも、ショッピングモールの買い物客の中に、弟たちの乗ったベビーカーを押して連れ去ろうとしている中年の女性を見ていた人がいて。すぐに引き留めて警備員に通報してくれたため、大事にはならずにすんだ。

 でも、とても怖いできごとだった。

 あのときわたしがよそ見して転ばなければ、ママはベビーカーから手を離さなかった。弟たちが連れ去られそうになることもなかった。

「もし、誰かに連れて行かれてたらどうしよう……」

 智颯の着物の袖をつかんで、泣きそうにつぶやくと、彼がわたしの両肩に手をのせた。

「大丈夫だ」

 うつむくわたしの耳に、智颯の穏やかな低い声が届く。なんの根拠もないのに、彼の声には不思議と説得力があった。

「もしかして、弟たちの居場所がわかるの?」

 期待を込めて訊ねると、智颯がゆるりと首を横に振る。