「おれは社が移動してきてからはずっとここに住んでいる。おまえたちのように学校にも行かない。年は……、数えたこともないからよくわからないが、おれが嫁を娶るのに、年齢は関係ないぞ」
智颯が軽く首を横に傾げながら、真顔でそんなことを言う。
智颯の顔は嘘をついているようには見えないけれど、言っていることはいろいろおかしい。
「さっきから変なことばかり言ってるのは、そっちでしょ」
いや。考えてみれば、この人は十年前に初めて出会ったときから変だった。出会い方も、容姿も、立ち去り方も。
もし智颯がこの神社の子なら、ここに住んでいるというのはわかるけど、年を数えたことがないなんてさすがにウソに決まっている。それに、十年前におばあちゃんの家の近くで出会った智颯が、突然、わたしの家の近くの神社に風のように現れたことだっておかしい。
智颯のことを疑いの目でジッと見ていると、右肘にひっかけていたカバンの中でスマホが鳴った。
「あ、ママだ!」
わたしが、なかなかおつかいから帰らないから、怒っているのかもしれない。
「ちょっとごめん、電話に出るね」
「でんわ……」
スマホを耳にあてるわたしのことを、智颯が物珍しそうに見てくる。智颯の綺麗な青紫の瞳に見つめられると、電話に出るだけなのに、少し緊張した。



