『あなたのお嫁さんになる』
そんな約束を交わしたときにできた、薬指の付け根を囲むようにできた痣。
リコちゃんが言っていたとおり、結婚指輪みたい……。そう考えると、勝手に顔が熱くなる。
「彩寧」
低く、少し艶のある声で名前を呼ばれて、ドクンと胸が鳴った。
「あのときの約束を果たしてもらう。約束どおり、おれの嫁になれ」
目を細めて不敵に笑いながら、智颯が命令口調で言った。かと思うと、智颯がそのまま、わたしの左手に唇を近付けようとするから、十年前にいきなり噛みつかれたときのことを思い出して焦る。
「ちょっと待って。嫁になれって、あれは本気だったの?」
「本気に決まってる。おれはおまえと契約をして、約束どおりに願いごとを叶える手伝いをした」
智颯がわたしの左手の薬指の痣を撫でる。くすぐったいようなその触り方に、心臓がドクンと鳴った。
「で、でも、お嫁さんになるって、つまり……、あなたと結婚するってことでしょ。そんなの無理だよ。わたし、まだ高校生だし……」
「問題ない」
「問題ありまくりだよ!」
高校生になったばかりの娘が、正体の知れない男の子と結婚なんて……。そんなこと、パパとママが許すはずない。
「だいたい、あなたの年は? 高校生? 大学生? あなただって、まだ結婚して家族を養えるような年じゃないでしょ。それに、告白も交際期間なくいきなり結婚なんて……。順番がおかしいと思う」
「彩寧は、いろいろとおかしなことを言うな」
口元に手をあてた智颯が、クスリと笑う。たったそれだけの仕草に、なぜかドキッとしてしまう。



