「ああ、あそこは古くからこの辺りを護ってくれてる氏神様の神社なんだよ」

 家に戻ってから彩寧が古い神社のことを訊ねると、おばあちゃんがそんなふうに教えてくれた。

「最近はこの辺りもおばあちゃんみたいな年寄りばかりだから、なかなか手入れやお詣りに行けなくなってしまって、すっかり寂しくなってたでしょう。商売、健康、学問、恋愛、いろんなご利益があるってことで、昔はお詣りに来る人も多かったんだけどねえ」

「ご利益って?」

「そうだねえ。お願い事が叶うってことかな」

「お願い事……」

 おばあちゃんの話を聞いてから、彩寧は毎日欠かさず神社にお詣りに行くようになった。彩寧には、どうしても神様に叶えてもらわなければならないお願い事があったのだ。

 二週間前、もともとあまり仲の良くなかった彩寧の両親が今まで一番の大喧嘩をした。

 何が原因で、どっちが悪いのかはわからないが、大喧嘩のあと、ママは彩寧を連れて田舎のおばあちゃんの家に逃げだした。

 ママはとても怒っていて、「パパとはもう一緒に暮らせない」と言っている。

 彩寧はママのことが大好きだけど、パパのことも同じくらいに大好きだった。だから、このままパパに会えなくなるのは悲しいし、一緒に暮らせなくなるのはもっと悲しい。家族がバラバラになってしまうのは絶対に嫌だった。

 それで、彩寧は毎日のようにお詣りに来て神様に祈っているだが……。彩寧がどれだけお賽銭を投げて祈っても、パパとママは仲直りをしてくれない。