「なぁ、彩寧」

 教えたはずのない名前を呼ばれて、本格的に少年のストーカー疑惑が高まる。

「十年前、おまえの両親はちゃんと仲直りできたか?」

 少年が首を傾げながら、わたしの左手を口元まで持ち上げる。

 十年前、仲直り――?

 現実か夢かもわからない記憶の断片が、ふっとわたしの脳裏を過ぎる。

 そのとき、神社の境内にザザーッと風が吹き荒れた。

 目の前の少年の白銀の髪が風に揺れ、目を細めた大人っぽい笑みが、記憶の中に唐突に蘇ってきた幼い男の子のそれと重なる。

 そういえば、十年前。わたしのパパとママは今では考えられないくらいに仲が悪くて、毎日のようにケンカしていた。

 あるとき、離婚の危機なんじゃないかというくらいの大げんかになって、ママはわたしを連れて家を出た。

 ママがわたしを連れて行ったのは、田舎のおばあちゃんの家。その裏山に神社があって、わたしは毎日のように、そこにおもちゃのお金を持ってお詣りに行っていた気がする。

「パパとママが仲直りできますように」と、ひたすらにそれだけを願って。