上がってきた階段を引き返そうとしたとき、広場とは反対方向へ繋がる公園の散歩道に石の道標が立っていることに気が付いた。そこには『高坂神社・東一三〇〇m』という文字が彫られている。

 中央公園は、とても敷地が広い。

 近所に住んでいても、利用するのは入口に近い広場ばかりで、公園の奥のほうまではほとんど行ったことがない。公園の敷地の中に、池や散歩の途中に休憩できる古民家のようなものがあることは知っていたけれど、神社があったことは知らなかった。

『高坂神社』と書かれた石の道標はずっと前からそこに建てられていたはずなのに、意識して見たのは初めてかもしれない。

 一三〇〇mというのは、ここからどれくらいの距離になるのだろう。

 道標を見つめていると、風が後ろから背中を押すように吹いてきた。後ろ髪がふわりと揺れて、ふと忘れていた何かを思い出しそうになる。

 気付けばわたしは、風に導かれるように『高坂神社』のほうへと足を進めていた。

 高坂神社までの道のりは、思ったよりも遠かった。しかも、この中央公園は神社に向かって緩やかな丘になっているらしく、上り坂や階段が多い。

 もう少しかな、もう少しかな、と思いながら歩いていくうちに、もはや引き返せないところまで来てしまい……。

 広場から二十分ほど歩いて、ようやく高坂神社の入り口を示す石碑が見えてきたときには、額にも背中にもじんわりと汗をかいていた。

 石碑の向こう側には、大きな石の鳥居が立っている。

 せっかくだから、お詣りぐらいしていこうか。

 そう思って鳥居の正面に立ったわたしは、その先を見上げて顔をひきつらせた。