夢を見た。
 淡い光の中で、しきりに誰かの名を呼んでいる夢を。
 聞こえるのは懐かしい子守唄。
 おひさまのにおいがした。春風が前髪を柔く舞い上げ、額をくすぐる。差し込んだ日差しに桜の花びらが反射し、ちらちらと照っていた。橙色に染まりゆくぬくもりの中で踊る薄紅。さながらそれは夢のようで、気怠さも、欲も、すべて甘やかに絡めとって溶かしてしまう。
 こちらにおいでとでも言うように、花びらが頭上に舞った。

 まただ。また、同じ夢。
 真綿に包まれているような柔い感覚。

「――――――……」

 薄く重なった視線は微笑みへと変わり、空中で花筏が波を作る。
 名前を呼ぼうとして、手を伸ばす。
 振り向いたその顔は、まだ、見えない――。