わたしと葵衣の間で心配そうにしながらも唇を引き結ぶ日菜を慶が連れて行った。

もしかしたら、葵衣と一緒にずっとドアの向こうにいたのかもしれない。

わたしには一瞥もくれず、日菜の手を取って行ってしまった。


葵衣とふたりきりの部屋の中で、思い出さないように押し込めていた約束を、半ば無理矢理に引き出す。

もう、誤魔化すことは出来ない。

出来ることなら、約束だけは美しいままであってほしかったけれど、それも今更だろう。


葵衣に繋がれた手のぬくもりが、今も変わらずにここにある。

それだけで、じゅうぶんだ。


幼い頃に双子の兄である葵衣と杉の木の下で、ひとつの約束をした。

それは口頭だけのものではなく、小指を絡めたわけでもなく、最初で最後にしなければいけなかった口付けとともに交わされたもの。


『生まれ変わったら、この場所でまた会おう』


葵衣のあの言葉が、すべてだった。


生まれ変わりなんて信じていない。

今の葵衣とわたしじゃなきゃ嫌だ。


生まれ変わって、兄妹という関係だけが抜け落ちた『葵衣』と『花奏』でいられるのなら、わたしは約束を信じて、決して忘れないように記憶に刻んでいただろう。


わたしは約束を忘れたかった。


生まれ変わらなくたって、葵衣と生きていくことはできる。

認めてくれる人だっているはず。

それでも、日菜が自分の想いを蔑ろにしてまで止めようとしたみたいに、慶が巻き込むなと泣いたように、わたし達と誰かを傷付けて、生きていくのはとても辛いことだから。


わたしさえいなきゃ良かったと言った葵衣の言葉に傷付きはしなかった。

葵衣もわたしと同じことを思ってしまっていたら、もう日菜や慶、友紀さんを裏切ることなんて容易にできてしまうということ。


葵衣がわたしに応えてくれないからこそ、守られているものがある。