「姉さん連れて外に飯食いに行こうと思ってたんだけどな」


わたしの隣に座って天井を見上げる葵衣から、少しだけ距離を取る。

このソファは、昔から友紀さんが真ん中に座って両脇にわたしと葵衣が寝転んでも余裕があるほど大きくて立派だ。

肩が触れそうで、触れないような距離まで詰めなくても、十分なスペースがある。

どうせなら、肩が重なって重みを感じるくらい、そばに来てくれたのなら良かったのに。


「なんで離れるんだよ」

「……近いから」

「別にいいだろ。兄妹なんだし」

「よくない」


葵衣の口から聞きたくない言葉はいくつもある。

わたしと葵衣を“兄妹”として結びつけてしまう言葉、そしてなにより“兄妹”という二文字。


葵衣がわたしのことを妹としてしか見ていないことがわかってしまう言葉なんて、聞きたくない。

それが、わたしと葵衣にとって、当然でなければいけないことだとしても。


「くさいんだもん、葵衣」

「うっそだろ、おい……え、ほんとに？」

「嗅いでみなよ」


そう言うと、本当にシャツの襟元を引っ張りあげてにおいを嗅ぐ葵衣から目を逸らす。

シャツを引っ張ったせいでお腹が丸見えになっているから。

バイト以外で外に出ることはなく、万年運動不足な葵衣のことだから、てっきりお腹周りは目も当てられないんじゃないかと思っていたのに、そんなことはなくて。

むしろ、少し引き締まっているように見えた。