翌日もその次の日も、雨は降り続いた。

週間天気予報は見事に真っ青で、傘マークが並んでいる。


普段はベランダに干している洗濯物を室内干しにしているだけで、リビングが窮屈に感じる。

ソファに凭れてテレビを観ていると、フローリングの床が軋む音がして、開きっぱなしのドアの方向を見遣る。


片方の肩がだらしなく肌蹴た、首元の緩いシャツに黒のハーフパンツ姿の葵衣が、いつにも増してくるくるとうねるくせっ毛を掻きながら、ソファに向かってきた。


「おはよう、花奏」

「おはようの時間じゃないよ。もう夕方」


朝に一度と、昼に二度も起こしたのに、葵衣は返事もしなかった。

部屋に入って叩き起してやろうかとも思ったけれど、葵衣の空間に入って平静でいられる気がしなくて、部屋のドアが可哀想になるくらいに強く叩いて、呼びかけて、それでもダメだったから、諦めて放っておいた。


「姉さんは?」

「さっき呼び出された。帰りは夜中になるって」


わたしたちの保護者である叔母の友紀さんのことを、葵衣は『姉さん』と呼ぶ。

友紀さんがまだ若いこともあるけれど、両親が生きている間は親戚との付き合いが全くなく、叔母と名乗って引き取ってくれた彼女をそう呼ぶことに抵抗があったらしい。


「最近多いよな。せっかくの休みなのに」

「まあ……友紀さんも大変だからね」


知ったかぶってそう言うけれど、友紀さんか多忙なのは本当のこと。

数日間家を空けることはよくあるし、今は新しいシステムを導入したばかりで、エラーが出るたびに友紀さん頼みという始末らしい。


いつ会社から連絡があるかわからず、この家は落ち着いて過ごせる場所とは言えないような気がする。

そんな友紀さんの気苦労を、少しでも背負おうにもわたしたちにできることなんて何もない。