浴室のドアを開けると、もわりと白い湯気が脱衣所に溢れ出た。

バスタオルを洗濯機の上に広げ、下着を脱ぎ捨てる。

玄関に置き去りにした制服は、後で乾燥機にかけることにして、浴室に足を踏み入れる。


葵衣が用意してくれていた湯船に浸かると、冷えきった身体の末端に熱が戻り始める。

全身が温もる頃になっても、葵衣が一瞬触れた肩の辺りには別の熱が留まっていた。


今頃、葵衣は何を考えているのだろう。

わたしの期待には掠りもしないのだとしても、想像してしまう。

浅はかで、恥ずかしい。


この家のもうひとりの住人である叔母が帰ってくるまでの数時間、葵衣と顔を合わさずにいられたら。

そんなことを考えてから、顎先を水面に触れさせてゆるく頭を振る。

葵衣に何か食べさせなければいけない。

放っておくと、お菓子やジャンクフードばかり食べて、まともな食事をしないから。


晴れてさえいれば、近所のお弁当屋に行って葵衣の好きな唐揚げでも買えばいいけれど、この雨の中もう一度外に出るのは面倒で億劫だ。

有り合わせのもので何か作れるといいな。

今朝開けた冷蔵庫の中身を思い出そうにも、浮かぶのは眠たげな目を擦って『いってらっしゃい』と手を振った葵衣の姿だけ。


わたしは相当、葵衣にご執心らしい。

そんなわかりきったことを反芻して、溢れたのは乾いた笑いだった。


双子の兄である葵衣に恋愛的な感情を持っていることは、わたししか知らない。

誰にも言えなかった。言わなかった。


半身である葵衣に引かれるのは当然だと思う。

誰にも相談したことがないから、これはわたしの主観でしかないけれど。

でも、その意味を履き違えてはいけなかった。

『惹かれて』しまってはいけなかった。


あと、二年。

葵衣への想いを隠し通すことができたのなら、そのときわたしはこの家を離れる。

だから、あと二年。わたしが高校を卒業するまでは。

葵衣のそばにいさせて。