慶からのメッセージの他にもう一件、友紀さんからのメッセージも届いている。

内容に想像がついて、ため息混じりに確認すると、今日は帰れそうにないとのこと。


長く眠ってしまっていたせいで再び寝付けるのはいつになるのかもわからない状態で、ひとりの夜を過ごすことを考えると頭が重い。

こんなときは、日菜とどちらかが寝てしまうまで通話をしたりメッセージのやり取りをしていたのに、それもできない。

今も、もしかしたら、この先もずっと。


四人で出かけたときに沢山食べられるように、と昼ご飯は軽くしておいたせいで、胃の中は空っぽ。

頭も身体も重くて、気持ち悪さがずっと胸の辺りにある。

葵衣にはしっかり三食食べるように言うくせに、わたしがこんなでは人のことを言えない。


葵衣どころか友紀さんもいない今、誰も心配する人なんていないのだけれど。


食事もお風呂も、すべてが億劫だった。

誰かを迎える家ではなく、ひとりになったとき、わたしはやっていけるのだろうか。

葵衣の心配ばかりして、自分で何もできないのはわたしの方だ。


このままベッドに戻って寝直してしまうと、その証明になってしまう。

動きたくない気持ちを奮い立たせて何とか廊下に出ると、ひやりとした床の感触がぼんやりとしていた頭を覚醒させる。


リビングの電気をつけ、ポットの電源を入れたあと、ソファに座ってしまう前に浴室へ向かった。

半分ほど溜まっていた洗濯物と脱いだ衣服を洗濯機に放り込み、小刻みに揺れ始めた筐体を尻目に浴室に入る。


熱めのシャワーを頭から浴びると、右手の甲に強く痺れるような痛みが走る。

乾いたハンカチでは拭い切れなかった血をお湯で流すと、傷の周りに蚯蚓脹れができていた。


お風呂から上がったあとは、水分を拭き取るだけ拭き取り、一番に傷の手当をした。

まだ少し、血が滲んでいたから。

まともな手当なんてしたことがなくて、消毒液を塗りたくったあとに大きめの絆創膏を貼っただけ。

それでも、この絆創膏一枚がわたしを成長させてくれた気がした。


普段は生乾きで終えるドライヤーも、毛先と根元が完璧に乾くまであてたし、洗濯物もきちんと伸ばして干す。

お風呂上がりに洗濯機を回せば良かったのだろうけれど、それは次の改善点にしておく。


リビングに戻って一番に熱いお茶をいれる。

棚にストックしてあるカップ麺に目がいったけれど、冷蔵庫にあったうどんを茹でる一手間を選んだ。

出汁は一緒に置いていた小袋のものを使ったけれど、ネギは切ったし冷凍していた半端な米を解凍して小ぶりな握り飯を作る。


一から作ったとは言えないし、毎日こうとはいかないだろうけれど、どれほど気持ちが重くても一手間を選ぶ余裕は持てるということがまたひとつわかった。


テーブルにお椀を置いて、この時間に観たい番組なんてないけれど、テレビの電源をつける。

旅のローカル番組を観ながら、静かに黙々とうどんを啜る。


ひとりで食事をすることは珍しくない。

けれど、明日にはきっと、明後日には必ず、誰かと並んで向かい合って食事が出来るとわかっているから、寂しくなかったのかもしれない。


こうして、ひとりで生活することが当たり前になったとき、寂しさに慣れるまでにどれくらいの時間がかかるのだろう。