「お前のせいだろ」


慶に両肩を掴まれて揺さぶられても、わたしは抵抗をしなかった。


何度も同じ言葉を浴びせられる。

段々と語尾が覇気をなくして、涙声の混ざった縋るようなものになっていっても、わたしは一言も発せず、自分からは微動だにしない。


「お前が……葵衣のことを好きでいたって、俺にも日菜にも関係ない」


顔も目も真っ赤にして、慶がわたしに撓垂れ掛かる。


日菜から聞いたのだろうか。

わたしが葵衣を好きでいることを。


「なんで、巻き込むんだ。日菜がお前のことを放っておけないって知ってるくせに。日菜が、誰よりもお前のことを大切にしてるってわかってるくせに」

「わかってるよ」

「わかってねえよ!」


わかってる。ちゃんと、わかってる。

どれだけ日菜を傷付けているのかも、どれだけ日菜を傷付けることになるのかも、全部。

いつも、わたしの味方でいてくれた日菜でも、葵衣のことまでをこれまでのように見守りながら一緒に喜んでくれるだなんて思っていなかった。

幼馴染みだからこそ、葵衣のこともわたしのこともよく知っているからこそ、わたしのための最善を選ぶことだって、予測し得る範疇。

葵衣とわたしを引き離そうとすることは予想していたけれど、日菜が一番苦しい形なんて誰も望んでいない。


全部、わたしのせい。

恋心を枯れさせることも咲かせることも腐らせることもできずに、膨らんだ蕾がトゲを持ち始めて痛いからって、吐露してしまったせい。


「わたしが悪いの?」

「お前しかいねえよ」

「葵衣は……?」

「あいつは悪くない。双子の兄妹を好きになることも、悪くない。お前が……葵衣に言わずに日菜に言ったから、こんなことになった」

「なら、やっぱりわたしのせいなのかな」

「お前のせいだ。葵衣以外に言うんじゃねえよ。葵衣にだけ言えよ」


わたしの想いは、恋愛にはなれない。

そこらにあるそれと同じ名前を持つのなら、誰かに恋と呼ばれたって、わたしは恋と呼ばない。


血の繋がりが怖かったんじゃない。

“兄妹”の関係に縛られていたんじゃない。


ただ、葵衣さえいてくれたのならよかった。


重なり合わないなら、行き場を無くした想いを葵衣に奪われてしまうくらいなら、壊さなきゃいけない。

その、最善の形を探そうとして、わたしは間違えてしまった。