真っ直ぐに家に帰ると、いるはずのないと思っていた葵衣が玄関先に座っていた。

自分がどんな顔をしているのはわからないけれど、きっとひどいんだろう。

わたしを見上げた葵衣は開口一番『大丈夫か』と言ったから。


「喧嘩しちゃった」


苦し紛れの言い訳をすぐにでも撤回したい。

たとえば本当の喧嘩のように、謝って済むことでもなければ、時間が解決してくれるわけでもない。

そもそも、わたしは日菜に謝る気がない。


「そっか」


生まれる前から一緒にいるのに、葵衣は読めない人だ。

わたしと日菜の “ 喧嘩 ” の渦中にいるのが葵衣だってことを知っていて素知らぬフリをしていると言われても納得ができる。


「姉さん、今日も遅くなるらしいから外に飯食いに行くか」

「うん」


そんな気分ではないけれど、もともと夜は外食のつもりでいたから、冷蔵庫の中身も知らないし米も炊いていない。

近くのファミレスに入るとして、すぐに帰って眠れることを考えると、難しいことは一旦放っておける。

着替えを済ませて来ようと葵衣の横を通り過ぎたとき、ピロンと軽快な通知音が鳴る。

わたしのではなく、葵衣の携帯だ。


「あー……」

「どうしたの?」

「いや、ちょっと先に下行っとく。ゆっくり来ていいから」


メッセージに返信もせず、急いで出て行った。

下に行っとくってことは、慶に会うわけではないだろう。

慶の家はわたしの家の階のひとつ上だから。


勘繰ったってわからないし、急用なら違う言い方をするはず。

葵衣のバイト先での知り合いだったりしたら気まずいから、言われた通りにゆっくりと支度を済ませて家を出た。