その後、突然のことに戸惑う慶と葵衣には先に帰ってもらい、わたしは日菜の部屋に来た。
四人で遊ぶつもりで、慶はきっと色々と考えてくれていたはずなのに、こんなことになるなんて。
わたしの腕にしがみついて泣きじゃくる日菜を見て、慶はすごく心配していたけれど、後のことは任せてくれた。
葵衣は日菜ではなくわたしを見て眉根を寄せていたから、大丈夫、と目だけで伝えると黙って慶を連れて行った。
お互いの部屋に来るのは珍しいことではないけれど、わたしから少しも離れずに泣きっぱなしの日菜をどうしたらいいのか、わからないままここにいる。
「日菜、ごめんね……」
何度も、日菜の名前と謝罪を繰り返す。
その度に涙の粒を増やすから、正直お手上げ状態だ。
日菜の涙をすぐに止めてあげられる言葉ならいくつかあるけれど、全部嘘になってしまうと思うと、迂闊に声をかけることができない。
「いつから……」
嗚咽に交じって日菜が零した問いかけにすら、答えられない。
もう、誤魔化せない。
気付かせてはいけない、悟られてはいけない人のひとりに、暴かれてしまう。
泣かせたかったわけではないけれど、泣かせてしまうことはわかっていた。
「……どうして?」
しがみつく力が強くなる。
これくらいの痛みに堪えられないなんて、わたしの覚悟は半端なものだということの証明になってしまう。
心のどこかで、期待していたのだろう。
ひとりで抱えて、ひとりで壊さなければいけないと決めたつもりが、本心では誰かと分け合っていたかった。
言えるのなら、言いたかった。
『わたしが好きなのは葵衣なんだよ』って。
日菜が笑ってくれるのなら、言いたかった。
けれど、今。
日菜に笑顔はない。あるのは、涙だけ。