見たままを言い表すと、確かにふたりのそばには人集りができていた。
正確に言うと、塀に凭れる葵衣は我関せずという顔で他所を向いていて、慶は人集りに向かって何かを喋っている。
ゆっくりと近付いて耳を澄ませる。
「なあなあ、日菜のクラスまだ終わんねえの?」
「あっ!ネクタイが緑!日菜と同じ二年だろ!」
「日菜と同じクラスのやついねえの?」
耳がキャッチしたのはすべて、慶の声だった。
日菜、日菜、と連呼するせいで、周りに集まった人達は口々に『 日菜? 』と疑問符を浮かべている。
「恥ずかしい……」
「日菜、ここで名乗ってみる?」
「絶対イヤ!」
片手で顔を覆ってため息をつく日菜に冗談を言うと、余程嫌だったのか慶と周りの人達の声を一瞬かき消すほどの大声を上げた。
そのせいで、ほぼ全員の視線が集まる。
「日菜!」
パッと目を輝かせて人の間を縫い、慶が駆け寄ってくる。
周りにいた人達は他校の生徒である慶に、よかったねと声をかけて、散って行った。
「おつかれ。日菜と、あと花奏も」
未だ顔を覆ったままの日菜に、よくそんなにひょうきんでいられるなと感心してしまう。
それが慶だから、悪気がないのもわかっているけれど。
「慶の馬鹿」
「えっ? 俺なんかした?」
ほんの少し顔を赤くして、慶を小突く日菜も本気で怒っているわけではないようで、ほっと息をつく。
ふと視線を慶の後ろに向けると、葵衣がこっちを見て微笑ましそうに笑っていた。
それも、わたしと視線が交わると同時に隠されてしまう。