ホームルーム中、見えないことを知っていながらも窓の外を見ていた。

首を伸ばして正門の辺りに目を凝らすけれど、立ち並ぶ樹木が邪魔で人影はおろか門さえ見えない。


「真野さん」


今日に限って長ったらしい担任の話を右から左へと聞き流していると、隣の席から声がかかる。

日菜が一方的に嫌っている、橋田くんだ。

嫌っているというか、よく思っていないらしい。

弁解はいいのか橋田くん、と言ったところで、当人は日菜にそんなことを思われているだなんて露知らずだろうから、特にフォローはしていない。


「なに?」

「さっきから外気にしてるけど、誰か待たせてるの?」


小声で喋るわたしと橋田くんに担任は気付いていない。

わたしの妙な行動も見えていないくらいだから。

さすがに隣の席の橋田くんは気になったみたいだけれど。


「幼馴染みが来てるの」


慶の高校は徒歩圏内ではなくて、電車で三駅先の場所にあるから、もしかしたら授業をサボって来ている可能性がある。

それに、葵衣はバイトさえなければ誰にでも時間を合わせられる。


「それって、男?」


眉間に二本の皺を浮かべて、訝しげに訊ねられた。

隠すことでもないから、正直に答える。


「そうだよ」

「……彼氏?」

「ではない」


慶はわたしを眼中に置いていないし、葵衣を双子の兄と紹介すれば恋人の可能性は誰もが否定する。

わざわざ関係性まで説明する必要はないから、黙り込む橋田くんから視線を教卓に移したとき、ちょうど担任の話が終わるところだった。