いつか、きみの空を。





幼い頃、双子の妹である花奏と県内で一番大きな神社に行ったとき、俺の背の何十倍も大きな御神木の陰に、両親の目を盗んで隠れた。

真ん丸な目をキラキラさせて、御神木を囲む柵の隙間から天辺を見上げる花奏をぎゅうっと抱き締めて、それから薄くて細い肩を掴んだ。


「約束しよう、花奏」

「約束?」

「生まれ変わったら、またこの場所で会おう」

「えー……」


意味がわかっているのかいないのか、唇を尖らせて渋る花奏の肩を軽く揺さぶる。


「約束出来るな?」

「じゃあ、わたしも約束する!」


パッと表情を変えたかと思うと、突拍子もないことを言い出す。


「生まれ変わるまで、ずっと一緒にいようね」


俺の肩に手を置いて、笑みを見せるくせに、どこか切なげな花奏は、自分の言ったことを噛み締めているようだった。


「……じゃあ、神さまに約束しよう」


そんなことを言って、俺は御神木を見もせずに、花奏の唇に自分の唇を押し当てた。

ぱちくりと目を瞬く花奏は、一瞬のことで何が起きたのかわかっていないようで、固まっていた。

花奏の唇に指の先を置いて、しいっと歯の隙間から音を発する。

それでもぼうっとしている花奏が我に返って叫びでもする前に、手を引いて両親の元へ戻る。


さっきの出来事をなかったことにしようとしたのか、いつにも増して元気に両親の間を駆けていく花奏を見ていたあと、強い風が吹いて木漏れ日が揺らめいた。


杉の木を見上げて、目を閉じる。


どうか、約束が果たされますように。

叶うなら、約束がずっと続きますように。


いつか、きっと。


【 いつか、きみの空を。 】