「兄妹って言わないで」


一度葵衣の言葉を遮ったのに、わたしからその二文字を口にした。

からからと風車の回るような、がらがらと崖が崩れ落ちるような、からんからんと鈴が揺れるような、大切な何かがまたすこし、形を変えた音が聞こえた。


両耳を塞いだわたしを追いかけてきていた葵衣の手は、ふたりの間に取り残されて、戻ることも伸ばすこともできずにいる。

この手を握ってしまいたいのに。引き寄せて、離したくないのに。

心臓を背面から焼くような葛藤に目眩がして、呼吸が急いていく。


「双子って言えばいい?」

「ちがう」

「じゃあ、なんなんだよ」


言い方ひとつでわたしと葵衣の関係は変わらない。

変わるのなら、この世の言葉を吐き尽くしてる。


「……わたしに」


もう何も喋らずに、この場を去ればいい。

部屋に逃げ込めば、葵衣は追いかけてこない。


「妹ってことを忘れて、触れることができる?」


あれほど逃れたかった葵衣の目を真っ直ぐに見つめて、問う。

まだ宙に置かれたその右手を、伸ばせるか、伸ばせないか。


ねえ、葵衣、どうなの。


「妹に触れたいなんて思わない」


手の甲を上向けたまま、葵衣はわたしから目を逸らさずに言った。


わかっていたことだ。

こんなことになって、きっと葵衣はわたしに触れることもなくなる。

初めから結ばれていた糸をぷちんぷちんと、お互いに痛みを与えながら切っていく。

一本ずつ、なるべく傷が残らないように、やさしく。