幼い頃、双子の兄である葵衣と、県内で一番大きな神社の杉の木の下で約束をした。
その約束がとても大切で、ずっと忘れてはいけないものだとわかっていたのに、心の奥深くに押し込めて隠しているうちに、錆び付いて開けることができなくなっていた。
もう一度、あの場所へ行けば引き金となって溢れ出すのかもしれないけれど、思い出は、思い出だけは美しいままであってほしくて、神社の場所は調べる途中でやめてしまった。
いつからか胸の内に芽生え、葵衣がわたしの世界に与えてくれた色や温度によって蕾を膨らませた恋心は、もうすぐ歪な形の醜い花を咲かせてしまう。
葵衣がほしい。そう泣き叫ぶ心が痛くて仕方ない。
葵衣への気持ちが恋だなんて、気付きたくなかった。
恋に限りなく近くても、そうであると認めてはいけなかった。
葵衣、アオイ、あおい。
同じ気持ちでいてほしいとは言わない。
幸せになってほしいとは願わない。
不幸にならないでほしいとは祈らない。
葵衣に望むことは、ひとつもない。
芽生えてはいけなかったはずの想いを葵衣に摘ませてしまう前に、わたしが壊す。
そのためなら、心が死んでしまったって構わない。
だって、わたしは
もう、葵衣しかいらない。
【いつか、きみの空を。】