「…………ずっと昔に別れた女房に引き取られていって、俺の倅だよ」
「もしかして隠し子? 愛人は何人いたの?」
「黙れ、富裕層の申し子が」

 ゼンさんは唇をへの字に押し上げると、思いきって電話を手に取った。書類のコピーを睨みつけ、慣れない番号を打って相手が電話に出るのを待った。

『はい、セトウチでございます』

 すると、ソプラノ声の女が出た。あいつの嫁だな、とゼンさんは数秒で電話を切った息子を苦々しく思った。息子のマサヨシは、彼が四十代の頃の子供だ。息子とはいえ、他の老人たちからすると、まだまだ若い四十五歳の男であるが。

 けれどゼンさんにとって、そんなことはどうでもよかった。本音を言えば、初孫が今年成人していることが些か許せないでいるけれど。

 ちっ、マサヨシが十三歳の頃は、親父の俺なんて五十四歳だったのによ。

 ゼンさんは晩婚での初婚だった。一番目の妻以外に女はおらず、その後は母の介護と仕事で、彼の人生一覧表は埋まる。