ミトさんのいない朝食が始まった時、カワさんがサラダを箸でつついてこう言った。

「物足りないから量を増やしてとは言ったけれど……サラダの方を二人前にするなんて、聞いてないよ」

 一晩中、考え事を続けていたゼンさんは、不服そうに唇を尖らせるカワさんを見て、ようやくちょっと肩の力を抜いて笑うことが出来た。キッチンに立っていたのは、昨日彼を押さえつけた女看護師だったからだろうと思ったが、口にはしなかった。

 入園者の朝食時間は、早い時刻に設定されているというのに、その時分に一番目の来客があった。ブラックスーツの裕福そうな男性が、食堂から見える受け付けフロアの前で「出勤前に立ち寄った」という声が聞こえてきて、ゼンさんは眉間に皺を作った。

「社長出勤か。ちぇっ、くそくらえ」

 味のないサラダを口に放り込んだゼンさんを見て、その背広の男性を案内していたオカメ看護師が、途端にこちらを睨みつけてきた。カワさんが危うく「オカメ」と言いそうになったのを察知し、ゼンさんは慌ててその口を塞いだ。