「行くの?」

 オカメ看護師がそう声を掛けて、歩き出すゼンさんのそばについた。彼は「ああ」と短く答え、そのあとに続くためカワさんも慌てて立ち上がった。

 同じように座りこんでいた若い医師が、「やれやれ」と続けて「よっこいしょ」と立ち上がり、「強いねぇ、ゼンさんは」と困った顔で頭をかいて、三人の後を追った。


 ミトさんは、寝室のベッドに横たわっていた。乱れていたシーツが皺のないものと取り替えられ、髪も枕の上に流されている。静かに呼吸を繰り返す彼女の唇は少し開き、薄らと開いた目は、ぼんやりと宙を眺めていた。


「これから睡眠薬が効き始めます。今は、先に打った鎮静剤が効いています」
「――そうか」

 ゼンさんは頷いた。「カワさん」と呼んで彼の手を引くと、部屋の入口で立ち止まったオカメ看護師とい男性医には目もくれず、ミトさんのもとへと歩み寄った。

 ミトさんが、こちらに気付いてゆっくりと顔を向けてきた。筋肉がすっかり弛緩した頬は皺が目立ち、一気に老いたような印象があった。髪は艶を失い、瞳はひどく濁っている。