彼の隣でゼンさんは壁に背を預け、その隣の若い医師は踵を立てたまま、壁に背を預けて膝を折っていた。白衣の裾が、廊下に垂れて皺を寄せている。

 カワさんは、続けてこう言った。

「心はきっと同じなんだ。心はどこにもいかない。覚えていなくても、そのままなんだ」
「ああ、そうだな、カワさん。きっとミトさんの気持ちは、すべて真実だった。全部、全部そうだ。俺たちは彼女のためにも、その全部やこれからの全ても受け止めなきゃならない」

 ミトさんの部屋から、最後の男性医師がオカメ看護師を伴って出てきた。若い医師が「どうも」と言ってへらりと笑うと、その男性上司は溜息を一つもらして「マサキ、後で説教がある」とだけ告げて歩き去っていった。

 残ったオカメ看護師が「スドウ君」と疲れ声で、若い男性意思を嗜める声を聞きながら、ゼンさんは立ち上がった。若い医師が「どうしたの」と言わんばかりに、きょとんとした幼い表情で彼の動作を見守る。