力が抜けたゼンさんは、オカメ看護師に抱えられるように支えられた状態で、茫然と部屋を覗きこんだ。カワさんは五人の職員に押さえつけられたまま、力の入らなくなった手足を廊下にだらんとさせ、そんなゼンさんの背中を見上げていた。

「彼女は三年前にここへ来たのよ。最近は安定していたけれど、症状が悪化したの。個人差はあるけれど、彼女は恐らく、もう――」

 オカメ看護師が、そう言って言葉を切った。その声は震えていた。

「…………畜生」

 そう呻いたゼンさんの頬に、一滴の涙がこぼれ落ちた。


 結局その騒ぎが落ち着くまで、ゼンさんとカワさんは、廊下に座り込んで待っていた。オカメ看護師の指示があったせいか、ミトさんの部屋に出入りする職員たちは何も言わなかった。

 ゼンさんが「友人なんだ」とぽつりともらすと、足を止めた顔も知らない白衣の若者――とはいってもゼンさんにとっては若者であって、三十代も後半頃だろう――が、「知ってるよ」と悲しげに呟いて、話をしようかと語り出した。