看護の仕事をしているだけあって、老体で体力の落ちた自分の身で、大柄で筋肉もあるオカメ看護師の力には敵いそうにはなかった。健康な身であったら、とゼンさんは悔いた。

 カワさんの方は、体重で中年看護師を押しのけたものの、奥からやってきた三人の男性看護師がわっと飛びかかり、ものの数十秒で押さえこまれてしまった。

 畜生! くそったれ!

 ゼンさんはオカメ看護師に羽交い締めにされながらも、ミトさんの部屋へ飛び込もうと必死に両手足を伸ばした。

 部屋に溢れる職員たちの間から、ベッドの上で暴れるミトさんの手がちらりと見えた。それを、片手に注射器を持った男性医師の手が、再び押さえこんでいるのが目に留まって、ゼンさんはカッとなった。

「ミトさん! ミトさん! 畜生離しやがれ!」
「落ち着きなさい! ゼンキチさんッ、落ち着いて!」

 廊下は暴動のような騒ぎになった。カワさんが力を振り絞り、初めて強烈な怒りに満ちた顔をして、自分を押さえ込んでいた男性看護師三人を弾き飛ばした。