「なんだ、一体何があったんだ?」

 ゼンさんがそう言って扉に近寄った時、カワさんがハッとしたように立ち上がった。彼は途端に「うッ、膝が……」と痛む患部を押さえたものの、すぐに気を取り直してゼンさんの服の袖を引っ張った。

「ゼンさんっ、この声ミトさんだよ!」

 数秒遅れて、ゼンさんもそれに気付いた。まるで火事でも起こったような慌ただしさで扉を開くと、斜め向かいのミトさんの部屋に、沢山の職員たちが押し掛けている光景があった。

 白衣の男性医師が数人、集まる看護師たちにもまれながら「早く来てください」とせっつかれて室内へと入っていくのが見えた。そこで飛び交う様々な声は、ゼンさんやカワさんが消灯後に聞く不眠の原因となるいつもの会話だった。

「先生、早く鎮静剤を!」
「興奮して暴れだしたんです!」
「内科とカウンセリングは受けさせたかっ?」
「はい、ミチヒラ先生とタナハシ先生が」

 ガタンッ、と一際大きな音が上がった。ベッドを軋ませて、甲高い獣のような咆哮が上がる。