五分後には就寝する自分を思ったのか、カワさんは時間を確認すると、途端につまらなそうに唇を尖らせた。

「眠る時間は早過ぎるし、定められている睡眠時間が長すぎるんだよ。ミトさんが不満だとするのは、もっともだと思う。だから寝付けなくて、結局はごろごろしてしまうんだ」
「ペンライトで読書でもするかい?」
「そんな器用なことは出来ないよ。僕らの部屋ってカーテンもないでしょう? ミトさんみたいに上手くやらないと、バレちゃうじゃない」

 カワさんは、子供っぽく両頬を膨らませた。肉厚もあって丸い顔が更にボールみたいに見えて、ゼンさんはげんなりした。

「カワさん、可愛くもないから、それはやめた方が良いぞ」

 そこでカワさんが口を開きかけた時、すぐ近くの廊下が騒がしくなった。ばたばたと慌ただしい足音が行きかい、その騒ぎに反応して他の老人たちも喚きだした。

 すすり泣く者、痛みを訴える者、大きな嗚咽、寂しさのあまり看護師を呼ぶ声……
 それらは、消灯後に起こるあの騒ぎと同じだ。しかし、職員たちの緊迫感が普段よりも格段に強くて、暴れているらしい人間の尋常ではない甲高い叫びが廊下を切り裂くように走り抜け、ゼンさんとカワさんは飛び上がった。