「……相変わらず、すげぇ肺活量だな」
「あれが地声って、すごいよねぇ」
「感心するところじゃないぜ、カワさん。ちっとは声量を抑えてくれなきゃ、俺は悪夢にもあの声を聞きそうだぜ」
「う~ん、確かにそれはそれで辛いかも……」
「きっと目覚めも悪いだろうな。起きた途端にあの顔がそこにあったら、悪夢と現実がごっちゃになって、一気に老化が進んじまう」

 くそくらえ、とゼンさんが吐き捨てると、カワさんが面白いとばかりにけらけらと笑った。

 カワさんがこうしてゆっくりしていられるのも、昨日オカメ看護師に「知っていますよ」と言われたからだ。どうやら全職員がそれを知っているようで、昨夜からゼンさんの部屋への声掛けは最後になっていた。

 各部屋の電気がすべて消灯するまで、個室の部屋があるフロアは比較的大人しい。その後が例の騒ぎになるのだ。ゼンさんは「メイ」を探す新入りの老婆の訴えが聞こえるたび、「メイちゃんはもう帰りましたよ!」と叫びたくなる。