信じていたい。だから、待つのだ。

 ゼンさんは、ここ最近ずっと不安が続き、不眠症と食欲不振に悩まされていた。彼に出来ることは、こうして言葉にして自分を納得させ、カワさんの気掛かりを少しでも解きほぐしてやることだけだった。


 そうだ、俺たちは少し考え過ぎだ。一昔前に報道されていたように、施設内で煙草の火を押しつけられたり、強い暴力を受けて罵倒されたり、食べ物を与えられなかったりということはない。

 俺たちのもろい骨がぽきりと折れるようなこともないし、葬式みたいな食事時間も、みんな食事の間に会話をするってことを忘れちまっているんだ。


 扉を隔てた廊下側では、行き交う足音が増えだしていた。「眠る準備をしましょうねぇ」と、子供をあやすような職員たちの声が聞こえてくる。

 こうして、午後八時前には全員がベッドに入っている状態が作られるのだ。オカメ看護師の声は独特なので「はい、もう寝ますよ。いいですか」とぶっきらぼうな大声が響き渡っているのを聞いて、すぐに分かった。