そろそろ就寝時間になる、とゼンさんは独り言をいって窓を見やった。雲の見えない夜の空に、眩い一等星が燦々と輝いているのが見えた。外の生温い空気の流入が絶えた今、室内がどれほど湿度と気温が調節されているのかを実感した。

「俺だって、あまり嫌な方に勘ぐりたくはない」

 ゼンさんは、ぽつりとそうこぼした。

「確かに新しい環境が始まってからの俺は睡眠不足で、急に煙草を取り上げられたこともあって苛々してもいた。――あの時期の俺に、強めの睡眠薬と精神安定剤が与えられていても不思議じゃない、とも最近は考えられるようにもなった。だから二人には訊いたのさ、健康なのに妙な薬はもらってないかとね」

 その疑いは、もしかしたら歳を取った自分の頭の中だけの、妄想の産物なのかもしれない。何せ自分は、老人ホームに対して良い印象を持っていないからだ。

「ミトさんは知恵熱を出して、風邪をこじらせちまったのかもしれない。だから、大丈夫だ。俺らは、彼女を待っていよう」