「俺たちは、手紙を書く相手もいないけどな。そういやミトさんは、お孫さんとの文通で、職員が前もって目を通すことを嫌がっていたっけ」
「プライバシーがないよね」
「この本は、俺たちに対する賄賂だったりしてな」

 ゼンさんは皮肉を言った。昨日、思いきってオカメ看護師にミトさんのことを尋ねると、ぶっきらぼうに「彼女、体調が良くないの」とだけ答えがあった。他にも廊下で、別の二人の看護師を捕まえて訊いてみたが、皆詳しいことは言わず、返事はどれも似たようなものだった。

「一番若い人に聞いてみようか?」
「新人さんってことか? 昼食時間は見掛けるが、それ以外の時間帯はどこにいるのか、さっぱり分からんぞ」
「う~ん、僕も知らないなぁ」
「オカメくらいだからな、どこへ行ってもその顔を拝むことが出来るのは」
「神出鬼没ってこと?」
「指示を出すだけで当人は楽をしているような、要は一番暇な奴ってことさ。現場監督は多いだろうが、化粧が崩れないところを見ると、そこまで忙しくはないんだろうなって勘ぐっちまう」

 そこで、しばらく会話が途切れた。